混ざり合ったハーブの香りに眉を顰めると、ジェリーは茶室を覗いた。
「どうしたの?リナリーちゃん?」
無意識にハーブを入れているらしくポットにこんもりと茶葉が溢れて、心地よさを通り越したキツイ匂いに、今までリナリーが淹れるハーブティーに手を出した事は無いジェリーだったが、食人のプライドからポットを取ると茶葉をビニールに入れた。
『あとで堆肥にしよう。』
その腕を引っ張られ、改めて相手が実は切れると恐いリナリーだった事に、ジェリーは慌てた。
しかし
「ね‥どうしてみんなミランダにお帰りなさいって言ってほしいのかしら?」
リナリーもエクソシストの自覚を持ってから、ずっと教団でお帰りなさいと声をかけていた。
リナリーの表情に、悩みなどの含み無く本当に聞きたいだけと言う気持ちを読み取り、ジェリーは顎に手を当てた。
「そうねぇ‥お母さんぽいからじゃないのかしら」
「お母さんって‥ミランダはそんな歳じゃないわよ?」
リナリーの非難めいた表情に、ジェリーはどう言えばいいのか首を傾げた。
「年齢じゃないのよ。なんていうか、家で迎えてくれる代表みたいな、、、ほらミランダのイノセンスの働きもそんな感じじゃない!?擦り傷して家に帰ってきて、心配で怒りながら手当てしてくれる、そんな存在?」
闘えない自分を
【役に立てないわ〜っ】
と嘆いていたミランダを、確かに自分は頼りにしていると思ったことを、リナリーは思い出した。
【ミランダは毛布のようさv】
ラビにとっては毛布で、神田にとっては
【てめぇは黙って俺を治してろ!】
表現こそ違え、闘えない守るべき彼女に守られていると言っているのは確かだ。
『お母さん、、か‥』
【お帰りなさい、リナリーちゃん。】
「お母さんて、、、もっとしっかり‥じゃなくて強いと思ってた」
覚えている母は、自分を家を守ってくれる支えとなる人だった。それを思えばミランダはずいぶんとあぶなかしいと、リナリーは思う。
居もしないミランダに気遣って言い直したリナリーに、ジェリーはサングラスの下で笑った。
「じゃお姉さんかしら。コムイ室長だってしっかりしているわけじゃないでしょ。」
「兄さん?‥」
頼りにしているけど、本当は強い人なんだけど、でも普段は頼らせないっというか、こちらが甘やかしている、そんなふうに思わせてくれる人。兄はは故意にそうしているのだろうが、ミランダは天然なだけで。
「そっか、、、お姉さん‥」
ミランダをずっと身近に意識できて、無自覚に嬉しそうに笑ったリナリーに
「それはダメ!」
空かさず入る突っ込み。入り口を振り返れば
「コムイ室長とミランダなんて許さないさ。」
「‥‥‥ふん。」
白やら橙やら黒やらが、匂いのきつさに心配で、あるいは文句を言いに来ていたらしく、飛び込んできた兄さん姉さん発言に腕組みをしていた。
「兄さんとミランダって、、、そんなのダメに決まってるじゃない。」
たったいま、姉ができたばかりのリナリーはコムイにだって取られまいと口を尖らせた。
「でも考えてみるとコムイさんとミランダさんは一緒にいる時間が長いんですよね。」
仕事と能力の使い方が限られるミランダは、教団から出ることが少ない。
「そういえば、ずるいわね。」
イノセンス、発動
「リ、リナリー?」
牽制球を投げた3人が、マジになってるリナリーに一歩引く。
「とにかく。ミランダはリナリーのお姉さん的存在で。」
ジェリーのフォローを
「違うさ。ミランダはあったかくてふわふわ〜と気持ち良い感じで、毛布っつ〜か」
「動かずしゃべらず、俺が六幻を使い続けられるようにしてればいい。」
「違います!ミランダさんはっ、、、ミランダさんは‥」
「そこで赤くなるとちょっと問題ありじゃない?」
他の3人の目が鋭くなり、ジェリーがアレンを追及しようとしたその時、ど派手な音が響いた。
「ミランダね。」
「転んださ。」
「‥俺は戻るが、匂いと騒音は片付けとけよ。」
言葉も無く現場に走ったのはアレンで、ミランダに手を差し出していた。
「大丈夫ですか?ミランダさん。」
「ええ、ありがと、アレン君。ちょっと話しに夢中だったものだから‥」
見ればミランダを取り囲んで科学班が、カップ片手に気不味い顔をしている。
「なんの話ですか?」
「復活の話しだよ。」
「復活?千年伯爵の?」
首を振る面々はアレンの、そして遅れてきたミランダやラビの前に雑誌をかざした。
「リーバー班長ったら獄寺を番チって言うんですよ。10代目が狼ってのはともかく‥」
「番チなんて夜叉知らなきゃわかんねぇって。」
「お前の山本・甲斐説もどうだよ?」
「ご主人意外に懐かないんだからそうだろ。」
「それならドーベルマンでもいいだろうが。」
「いや、あれは忠誠以上に忠実も含まれるから。」
「山本君はハスキーです。。誰にでもフレンドリーで迷子になりやすいし。」
迷子って、、、ミランダ、アンタが言う?
呆れる科学班とは別に、アレン達も固まった。
「ミランダさん?話し、分るんですか?」
会話に加わったミランダに、アレンは頬を引き攣らせた。
「ボンゴレを犬集団に例えるのもなんだけど、それより!、ミランダ、まさか雲雀が好いなんて言うさ?」
それはダメダメ〜っとラビが頭をブンブン振るのに、ミランダは小首を傾げた。
「雲雀君はミニチュアピンシャーじゃないかしら。休み知らずの恐い者知らず。頑固で独立心が強くて攻撃的で、小動物を追いかけるなんてピッタリ〜。」
「ミランダ‥ボンゴレにも詳しいけど犬にも詳しいさ‥」
うっとり世界を繰り広げるミランダに、思わず後ずさったラビは何かにぶつかった。
「げっ、ユ〜?」
「‥いつまで騒いでいる。」
五月蝿かったのか気になったのか、やってきた神田と雑誌をリナリーとアレンは交互に見た。
『ミニチュア?』
『ミニチュア。』
「貴様ら、何を笑っている?」
口を押さえ、あるいは腹を抱え、顔を赤くして必死に何かを堪えているリナリー達の表情に、勘違いしたミランダは慌てて口に手を当てた。
「あ、それより人を別のものに例えてはいけないわよね。人権侵害だわ。ごめんなさい。」
毛布だの体力回復機材だのそれまでミランダの噂をしていたラビと神田は気不味そうに視線をそらせ、アレンは誤魔化す代わりにミランダに抱き付いた。
「今度、僕だったら何か教えて下さい。僕にとってのミランダさんもお話しますから」






元はリボーンのキャラ考察だったのですが、邪が入り。結局邪と理性の戦争の結果砕け散ったイノセンス枝葉を散りばめたら福笑いが完成しませんでした(涙)。2008/1/10

お帰りなさい